lesson3:セーフワード(6)
このまま、また絶頂してしまうのだろうか。それはあまりにも酷い。前も、その前も同じように焦らされ、膣(なか)で感じる快感はお預けのままだ。それさえも、成宮の策略なのだろうか。
自分の胸に食い込んだ縄は、赤く、思ったよりも細い。もっと太いもので縛られているのだと思い込んでいたが、一センチにも満たない縄である。しかも、きつくは無いのだ。まるで、全身が成宮に支配されているような、そんな感覚。そっと、それでいてきつく、抱かれている様にも錯覚する。
「ああ、変な感じ……なんだか、あなたに……すっぽり包まれているような感じさえしています」
「ほう。それは光栄だ。僕の縄が、貴女には僕の腕にも同様だということですね……なんという人なのです、いずみさんは。貴女に会えたことが……僕の、」
その次に何か言おうとして、成宮は言葉を――変えた。
「目隠しは、しますか」
不意に聞かれて、私は首を振る。成宮の顔を見ていたい。この人が、私を見つめるその視線を。
「……分かりました。それでは」
そういうと、再び彼は私の先端の口に含む。唇で啄み、また舌で転がす。声を我慢するのも忘れて、感じるままに声をあげる。こんな、快感に従順な自分が、今までいただろうか。いつも、セックスの時でさえ、自分を保ち、相手の事を考えていたのに。こんなにも、曝け出せることがあって良いのか戸惑いさえ感じる。快感を存分に味わう。快感に真っ直ぐに向き合う。そんな自分は今までいなかった。まるで、普段の仕事の私……ふがいないと、こんなはずじゃ無いと思っていた自分と比較しても、あり得ない。そう、それは拓也との関係でも、何でもそうだった。気が強そうに見えて、実は自分を曝け出すことはできない。人に自分をアピールすることもできない。彼氏にも、同僚にも、後輩にも先輩にも。全てが同じに見えた。
でも。
成宮とのこれ(・・)は違う。
この瞬間だけは、自分に正直であると、言える気がする。
「あっ、ああっ……」
「気持ちいい時は、言っていいんですよ。気持ちいいと。言いなさい。さあ、どこが気持ちいいんですか」
成宮の言葉が魔法のように、心を、子宮の奥を溶かしていく。その度に濡れに濡れて、奥から溢れていくのが分かる。
「ここっ……この、先……が」
「もっとはっきり言うんです。どこがいいんです?」
意地悪な質問にも、そのまま答えていく。知らなかった、遠かった成宮は、何故か身体を近づける度に、心が近くなっていく気がする。
「おっっぱい……、が気持ちいい……のっ……」
「ふふ。可愛いですよ……そう、もっと自分を見せて。僕にだけは、貴女の全てを見せて……」
「すべて……を……」
涙目で成宮を見ると、彼は優しくキスをしてくれた。
「そうです。僕も、貴女に、貴女だけに見せます。隠していた自分を……だから」
成宮もそうなのか。私にだけ、お互いだけが相手の性癖を受け止められる。そんな存在は、今までいなかった。偽って偽って、上手く取り繕っていた気がする。別れたいのに別れない、嫌と言えない自分。でもこの瞬間だけは、真実の自分でいられる……
「どこがいいんですか、さあ、僕にだけは言って、いずみさん」
「ここっ……ち……くび、をっ、早くぅ……」
「ああ、可愛い、可愛い……いかせたい。気持ちよく、させたいです」
縛られてパンパンに腫れた乳輪を、ねぶり、扱いていく成宮。快感を堪えているであろうその眉を顰めた表情は、大変に官能的に見える。舌が回転するかのように這っていき、片方は指で弾かれ。一気に絶頂へと誘われていく。
「ああ――、いくっ、いくっ……」
それに抗う事をせず、そのまま我慢もせずに快感に身を投げる。高く放り出されたかの様に浮遊感を味わい、下降していくと、成宮の切れ長の目があった。
「……とても素敵でした。ああ、いずみさん――綺麗だ。貴女は素晴らしい」
いった後で頭がぐるぐると回っている様に思えて、なんだか分からないまま成宮は私を撫でている。肩のライン、胸、腰、足……触れた場所が火の付いたように熱くて、びくびくと揺れた。
「絶頂後の貴女の身体……ああ、とても愛おしい。この、縄で張り詰めた肌。紅潮した頬……美しい」
今まで、こんなに慕情を感じたことは無かっただろう。それほどに、成宮は私の身体に欲情している。愛おしい、という言葉の意味を、どうとっていいのか分かりかねるが、それでも彼が自分を欲していることは明確だった。嬉しい、と思ってしまう。求められることは、喜びなのだと改めて感じてしまう。
突然、ぐい、と、首の後ろの縄を引っ張られる。
「ああ!」
快感の余韻の中で、引きつる身体に嬌声をあげた。成宮の顔は紅潮し、ぎらりと目が光った。
「このまま犯してしまいたい……貴女の膣を、肛門を、僕のコレで」
思うままに操られる身体。逆らえず、その強烈な言葉にさえも反応する自分。膣の奥が、蠢くのが分かる。
「成宮さん……わたし、は……」
成宮は首を振った。
「いいえ、いけないことです。僕は、そうしなくても……貴女を」
成宮は、何故か落胆しているように見える。どうしてだろう、とても可哀想で、抱きしめたくなる。何がこの人をそうさせるのだろう。
「……今日は、してみたいことが、あるんです。縛って、縛って……そして貴女の、おそらく誰の侵入も許していない場所を、僕が」
ぎくり、と心の奥が痛む。もしかして、成宮は、アナルセックスについて話しているのだろうか。
「あのっ、成宮さん……後ろは、やっぱり」
「貴女の味を、僕は味わっていないんですよ、まだ」
引っ張られた縄をそっと外して、またソファーに座らせられる、そのまま、そっと、脚を開かれた。縄がサイドに沿わせられ、拡げられているかのようにそこが大きく――開く。
「……すごい、濡れていますよ」
「ああ……」
期待しか無い心で、じっとその様子を見ている。まるでスローモーションのように、成宮の唇が近づいていくのが分かる。六角形の縄が胸から腹へと張り巡らされ、肌は喜んでいるかのようにまだ燃えていた。ゆっくりと、大腿に舌が這わせられると、絶頂痕の余韻で、鈍く深く、その感触を味わうことができた。
「少し塩気があって……そして甘い。良い味です、いずみさんの脚の味は」
れろ、と舌が這って、それからおもむろに茂みに手が沿わせられる。そのままぐいと上げると、しっかりと曝け出された場所に成宮の視線がいくのが分かった。
「私……お風呂にも入っていない……」
そのままで成宮の快感を受けてしまったことを恥じる。私はそんなに余裕が無いのかと赤面する。そう、いつも、な成宮に会うときはそんなことも忘れるほどに、夢中になってしまっていた……
「いいんです。僕がそう、したかった」