lesson5:背徳の味(5)

「……」
 ずきん、と心が疼く。膣が波打つのが分かる。
 私は、彼を欲しがっている……彼の濃厚な舌の動き。洗練された言葉。嘘かもしれない甘い甘い言葉……
 結婚出来る人でも無い、恋愛でさえも……そんな人なのに、どうしてこんなに欲しくなるのだろう。
「お願いです。貴女の、愛液を僕に……飲ませてくださいますか」
「……っ、そんな」
 明らかに動揺した私の顔をみて、成宮は押し倒すようにキスをしてきた。舌と舌が絡まる。熱い。心が、身体が、燃えていく。欲しかった。そう、この人が欲しかった……
 気がつくと、涙を流していた。会いたかった、成宮とこうしたかった。それを、私から言えなくて、辛かったのだ。しかも、拓也の家族との事も相まって、誰にも言えないこの気持ちが霧散していくようだった。
「な……る、みや……さ……」
 途切れ途切れに喘いで、でも自分のアパートだったことに気づいて口を自分で塞ぐ。成宮はそれに気づいてくす、と笑った。
「声を出してはだめです。じっとして……そう。とても可愛いですよ」
 部屋の床に押し倒されて、唇を首筋に這わしてくる。その、ゆっくりとした動きが心地よい。さっきまで、憔悴していた人物とは思えないような、女を知っている指先が私を翻弄する。ゆっくりと胸の膨らみを撫で、舌で胸元を擽る。さっきまでの、元気の無かった成宮では、もう、無い。
「そんな……成宮さんっ、元気が無かったのに……どうして」
「いずみさんの恥ずかしい姿を見られるなら、元気になりますよ、誰でも」
 他の男もなる、という風に言われると、くすぐったいような変な気分になる。トレーナーを脱がされて、下着が顕わになると、その下着の上から口づけを落とす。
「あっあ、そん……な」
「黙っていなければいけませんよ。次の日、お隣と鉢合わせたらどうするんです。彼氏とは違う男を連れ込んでいるのですから」
 まるでこの関係は秘め事だと言われ、その通りなのだがやはり心が躍る。二人だけの秘密ごと。だって成宮は妻帯者、私は彼氏持ち……許される二人では無い。それでも、快感が勝つ。成宮の与える快感に、身を委ねたい……それで彼を癒やせるなら……尚のこと。
「……それでもいいです……会いたかった……私」
「……」
 成宮が何か、言おうとした瞬間、お風呂のお湯が入ったと報せる音が鳴る。
「あ……成宮さん、どうぞ」
「いずみさんも、一緒ですよ」
 二人で脱衣所で、服を脱ぐ。目隠しをせずに成宮の身体を見るのが初めての私は、どきどきしながらその姿が鳴るべく視界に入らないようにする。おそらく、おそらく彼のその場所は……
「すみません、まだおさまってませんが」
 やはり。口の中に含んだことのある、成宮の凶悪なそれ(・・)。あれが、私の口腔を犯し、後ろの穴を犯したのだ。
 子宮の奥がキュンとなるのを感じる。あんなに冷え切っていた心がゆっくりと、成宮が来た事で温まっている気がした。
 シャワーを出して、温かくなるまで確認する。それをそっと、成宮にかけた。
「温かいです」
 成宮がそっと、目を閉じる。どうしてこの人は私に会いに来たのだろう。私が彼のよりどころになっているということだろうか。だとしたら、妻は一体何をしているのだろう。成宮をこんなにまで憔悴させる、妻の存在に嫉妬心を覚える。妻さえしっかりしていれば、私も成宮に会うことも無く、こんなに悩むことはないのかもしれない。
 髪の毛に、そっとお湯をかける。すると、成宮が、シャワーの絵を取った。
「いずみさんにも、かけましょう」
 そっと、ゆっくりと肩にかける湯は、徐々に心も溶かしていく気がする。今日の嫌な記憶や、拓也に身体を晒す事になりそうだった一刻ほど前。こうなることを予想できなかった私。
「……まだ、残っていますね」
 そう言うと、その、縄の痕に舌を這わす成宮。胸の狭間に、そっと舌がなぞって、びくんと揺れてしまった。
「ああ……」
 期待と、快感の声を漏らす。彼の先端を見ると、もういきり立って、先はとても艶やかで大きい。
「いずみさんの匂いを嗅いで、もう……たまらない。虐めたいんです。いいですか」
「でも……」
 不安に感じて、戸惑う。どうしよう。自宅であんなこと、する勇気が無かった。
「今日、僕は縄を持っていません。でも、一つ。したことがあるんです」
 なんですか、と成宮と向かい合って聞く。彼はこう言った。
「いずみさんを剃毛したいんです。お願いします」
 一瞬、時が止まったかと思った。
 ザーザーと、シャワーの音は止んでいない。そのまま、シャワーを元の場所に掛けて成宮は跪く。
「浴槽に座って下さい。さあ」
「でも、もしそんなことをしたら……私は」
「彼とセックスしたいのですか」
 ずきん。心が痛む。
 さっき断ったばかりの私の心を、見透かしたように成宮は言う。
「いずみさんが、彼としたい、というなら止めておきます。僕はそこまでする権利はないので」
「契約には、セックスはいいと……書いてあったように思います」
「これ(・・)は(・)契約(・・)じゃ(・・)無い(・・)。そうですよね。貴女の意思です」
 セックスは、きっとしない。拓也とはもう、出来ない気がしていた。それを、どうしてかこの人は知っている……知っていて、言っているのだと思った。
 成宮の冷たい、それでいて悲しそうな笑顔。そっと、石けんを泡立てていく彼の指を見つめる。私は、嫌だと言っていい。彼氏のところに戻ると  言えばいい。それだけなのに。
 そのまま泡立てられたその指が、丁寧に私を撫でていく。それに呻き、私は吐息を漏らす。その色はピンク色で、色づいた声を聞いて成宮は笑った。
「その声が、聞きたかったのです」
 そっと、狭間に指を沿わし、私の唇にキスをする。ザーザーというシャワーの音は止まらない。舌を絡めて、快感に咽ぶ私。拓也には、もう抱かれることはない。きっと……
 その指先が、突起に触れると、腰がうねる。それを見て、彼は中へと指を進めた。