lesson3:セーフワード(7)

 ちゅ、とキスを受けるとビクンと揺れる。鈍い衝撃から、徐々に性欲が復活するかのように、縛られた乳首が張りつめていくのが分かる。絶頂したばかりなのに、もうこの人の愛撫でまた、いきたくなっている。連続する吐息で、成宮が唸る。その声が嬉しい。この人を、私は喜ばせている……
「ああ、すごい、こんなに僕の舌で喜んで……いけない人だ、貴女は」
「……そうですっ……私は……こうするために、今日、来たんです」
「もし、これを罪、と呼ぶなら」
 成宮は舌をそこから話し、じっと私の目を見つめた。
「一緒に堕ちてくれますか、僕と」
 成宮の寂しそうな目。一緒に住んでいない妻のせいなのか、それとも私に男がいるせいなのか。分からないけれど、この人の与える世界に、まだ浸かっていたい。誰かに合わせて、無難に生きようとしてきた私だけれど、この世界を知らないまま生きるのは、辛すぎる。
「はい、――はい。いいです、成宮さんとなら」
「……ありがとう」
 一言そう言って、彼はそっと、私の乳首へと指を伸ばす。それから、舌を尖りきった三角に旋回させた。
 途端に強くなる快感。さっき、絶頂したなんて忘れている身体は、確実に次の快感を求めている。こんなに、貪欲だったろうか。こんなに好色だったなんて、知らなかった……全ては、成宮のせい、なのだ……
 そう思いながら、今度は自分の言った「いいです」の意味を探る。成宮を受け入れる、ということは契約をしなければならないのだろうか。ああ、もう、何も考えられない。何も。
「酸っぱくて、いい匂いだ。これから成熟していく女性の香り……」
 舌を差し込まれて、思わずぐっと腰を突き出す。その中で、成宮が笑うのが分かった。
「奥に感じたいんですね。貪欲で好きですよ。いずみさんのその性格が」
「ああ、もう……もう、もどかしくて……」
 正直に言うと、成宮は舌を離した。それから、そっと、私の身体をソファーに横たわらせる。すぐさま、身体をひっくり返し、いわゆる「四つ這い」の格好になった。
「あの、何……を」
 不安になって言うと、縄が擦れる音がした。
「手首を縛ります。貴女が、悪戯をしないようにね……」
 手首を後ろ手に縛られると、必然的に肩で身体を支える格好になる。ソファーに置いてあった小さいクッションに、私は顔を埋める。臀部を高く上げられると、一気に被虐欲が高まる。期待で胸が高鳴った。
「ああ……もう、こんなに濡れて、すごいです。しかも、入り口がひくひくしているの、分かりますか?僕の舌が、ここに入っていたんですよ」
「知っています、だから、もう……もう」
 懇願の準備をしようとしたのが分かったのか、成宮は私の双丘をなで始めた。
「白くて、綺麗な丸のライン。芸術ですよ、女性のお尻は。しかも、いずみさん、貴女は縄でがんじがらめ。僕に逆らえない。そして逆らう気も無い」
 最後の言葉に、反抗心が湧き上がる。違う、自分は逆らう気はある、あるのだ。でも快感に負けてしまうだけ。嫌な事は、自分で言えるはず、だった。
「今日はしたいことがあるんです……ずっと、言っていましたが」
 ぎくり。恐怖が蘇る。
「嫌だったらいいのですよ。でも、僕は止めませんがね」
 途端、人に今まで触られたことが無い場所――そう、拓也にも――そこに、熱いものが這わせられた。
「ああ……まさ、か」
「ああ、とても良い味です、貴女の後ろの穴は」
 じゅっ、じゅっ、と唾液を絡めて、執拗にそこを舐めてくる成宮は、最早悪魔のような存在に思える。あんなに嫌だと言っていた場所を、開発しようとしているのだ。
「嫌、そこは――嫌っ、だめです、からぁ……」
 拒否の言葉を必死に繰り出すが、当然のこと、成宮はセーフワードを言うまで止まらない。でも、初めての場所を舐められる快感は、じわじわと身体中を駆け巡っていく。
「僕が舐める度に、ここ――きゅっと締まるんです。可愛い穴ですね」
「止めて――止めて、くださいっ……」
「だめ、止めませんよ。だっていずみさん、気持ちいいでしょう」
 図星を差されて、かあ、と顔が赤くなる。こんな場所でも快感を感じる事が不思議で、こんなことをする人はアブノーマルな人種だと思っていたのに、いつのまにか自分はそれが気持ちいいと思ってしまっている……
「ほら……ここ。僕の舌が入ってこないように必死だ」
「嫌……いや……」
 本当に嫌ならセーフワードを言えばいい。でもそれは口からは出てこない。それどころか、腰は突き出し、成宮の顔面にせり出さんばかりに主張してしまっている。
「嫌、と嘘をついているならお仕置きが必要ですね」
 冷たく、成宮は言い放ってから、じゅる、と指を舐めている音がする。来る、来てしまう。恐れていたことが、現実になってしまう……
「成宮さんっ……」
 正樹さん、ではなく、成宮さん、と呼んでしまった事を後悔するが、もう遅かった。成宮の指が、ゆっくりとそこに侵入してきていた。
「ああ……入っていますよ、ゆっくりと、確実に。貴女の直腸に」
 ほんのりと感じる痛みと、燻る快感を同時に感じて、私は声をあげる。成宮の指を、しっかりと噛みつく様に離さないその場所は、初めての侵入に戸惑っている様子だった。
「いた、いた……い」
「力を抜くんです……そうそう、息を吐いて」