lesson3:セーフワード(8)

 はあ、はあ、と荒く遺棄をする。そうじゃない、きっと長く、ゆっくりと吐くのだ。ふうー、と遺棄を吐くと、上手ですよ、と声がする。
「可愛いです、いずみさんが頑張る姿は。とても綺麗ですよ、そして小さい穴が愛おしい。美味しいから、中に舌を入れたいです」
「やめ……だめです、そんなこと」
「どうしてですか?こんなに中に欲しがっていますよ」
「だって、こんな……いけないことです、からっ」
「でもいずみさんは喜んでいる。僕には分かります……ほら」
 そう言って、成宮は私の流れ出る愛液を啜った。その衝撃で、私は仰け反る。まだ指は離れない。
「ああ~っ……ああ、はあっ……」
 肛門に入った状態で舐められると、とてつもない快感が襲ってくる。こんな種類の快感を、今まで体験したことがない。恐怖で身体が引きつる。
「怖い……怖い、です」
 半泣きで成宮に言うと、優しい声で大丈夫、と言う。その声で少し、身体が休まる。でもじんじんと、中に入った指は主張する。どうしたらいいのだろう。分からない……
「快感は強そうですね、縛られた貴女はとてもセクシーだ。いきそうになりますよ」
「成宮さんが?嘘……」
「ずっと我慢しっぱなしです。こんなに感じて……嬉しいですが、ね」
 気持ちがいいと言われると、途端に恐怖が和らぐ。成宮のあの場所。どうなっているのか、見たい……
「私に、成宮さんのを見せてはくれないのですか」
「……それは、また、にしましょう。今日は貴女をお尻でいかせなければ」
「そんな、酷い……酷いことをするんですね」
「そうですよ、僕は……貴女の快感の為なら、酷いことだってします」
 不意にまた、持ち上げられて体勢を変えられる。今度は、クッションを腰の下に入れて、腰があがった状態でソファーの上で脚をまた、開かれた。
「これなら貴女の顔が見えます。イキ顔を見させて」
「ああ……」
 諦めの声が、部屋の中に響く。もう逃げられない。でもそう思うと更に快感が増していくようだった。縛られて、自由のきかない中での愛撫と奉仕。もうどのくらい時が経ったのだろう、それさえも感じなかった。
 また、そっと唾液を絡めた指が、本日二度目の侵入を試みる。今度は、さっきよりも容易に入っていく。締め付けてしまう身体の反応が憎い。そのせいで、子宮の奥に響く快感がある。ずるい。この男はずるい。私が何が好きで、何を受け入れるか、もうとっくに分かっていたのではないか。本当にずるいのだ。
「さっきよりいい具合に力が抜けています。もっと奥に入れられる。そう、その調子ですよ」
 中指が徐々に、奥へ奥へと入っていくのと同時に、縛られた縄の継ぎ目をなぞられてびくんと跳ねる。私の身体はまるで、成宮の奴隷のようだ。この男の言いなりに快感を貪る……
 奥に入った指が、ちろちろとそこを刺激するのが分かる。すると、不思議なことに子宮の奥を刺激されているような、変な感覚が襲ってきた。
「ああ、届きましたね――貴女の気持ちがいいところに」
 そこ(・・)がなんであるのか、私には分からない。でも、確実に、何かに触れているのは明確だ。
「ああっ!はあ……なに、なんなの……ああっ!」
 訳がわからず、私は叫ぶ。人の家にいることなんて忘れて、大きい声をあげてしまっていた。
「じゃあ、これで――いずみさんが大好きなこれを、あげますよ」
「?――はあぁ……」
 後ろの穴の奥に指を入れられたまま、尖った三角形とともに、おそらくその下、尿道口――なのだろうか、おしっこの出るところをちゅうちゅうと吸われていく。すると、予期もしないまま、大きな波のような快感が突然襲ってきた。
「!!!」
 唐突な絶頂を経験したのは初めてだった。いかされる感覚というのは、前回のプレイで知っていた。でも、こんな風に予期もなく落ちるような事は無かったのだ。
「ああ、ああ――っ!」
 宣言するまでも無く、一気に落ちる奈落の穴。鋭い痛みと、それから棘にまみれるようなチクチクする快感。その深みは、今まで――そう、どのセックスでも味わったことが無いものだった。私は叫びながら、跳ね上がる身体はそのままにして彼の伏せた目を見ていた。愛おしそうに舐める、吸い上げる舌と唇。そして、左目の黒子。
「あうっ、ああ……」
 こんなにぐったりと、ありあまる余韻を感じたことは無い。そう、初めて(・・・)のことだった。
 その、私の縛られ、余韻で動けない身体を、じっと見つめ、そっと臍にキスを落とした。
「お尻で、いってしまいましたね――?可愛いいずみさん。僕の、大事な人――」
 どうして私は、正樹(・・)さん(・・)と言えなかったのだろう。どうしてアナルに侵入することを受け入れてしまったのだろう。逆らえないのか、この男(ひと)には……
「大変美しい。縄の食い込み方が芸術品だ。申し越し、眺めていても?」
 声がだせずに、頷く。すると、成宮は私の肌と縄の狭間を撫でながら、じっとりとそれを眺めているのであった。
 不思議な人。
 妻帯者で、縄で縛るのが好きで。そして、自分を曝け出さない人……
 その、成宮という人の特徴を頭で繰り返しながら、私とこの人は同じタイプの人間なのでは、と思ってみる。
 成宮もこの性癖を曝け出せていなかったとしたら?
 私と出会って、満たされているのだろうか。日常生活よりも――?
「……次は、年明け、ですね。良いお年を。いずみさん」
 縛られて、そんな言葉を言われると思わなかった。思わず噴き出して、その私を見ながら、成宮もくす、と笑ってくれた。
 また、成宮のいない日常に……戻る。戻るのが、とても嫌だった。