lesson4:縄酔い(5)

「ああ、美しい……たまりませんよ、この姿」
 首から胸、また胸から腹、と縄が這っていく。人形で夜な夜な練習しているのか、分からないが成宮の縄裁きは早い。そして、服をはだけさせながら縛っていく様子が酷く扇情的であった。縛ってもらえるのが嬉しくて、縄のこすれで私は最大限感じてしまっていた。
「ああっ、はあっ」
「すごく感じている……とてもいい」
 ブラジャーをずらされ、私は呻く。その谷間に唇が這って、とんでも無く気持ちがいい。そのまま、ソファーに倒れ込むともう一本、彼は縄を取り出す。
「今日はきついですよ、覚悟して下さい。僕を煽った貴女のせいですからね」
 何も考えられなくて、ロングスカートを取られて下着さえも取られる、そこに、縄を鼠径に張り巡らされて、またグイと拡げられた。それから、脚が動かないように、大腿とふくらはぎをぎっちりと結わかれる。
「今日こそ、これをしましょう。ずっとしたかったんです」
 黒い布。これが今からどうなるのか、私には予想が付いた。
 声も無く頷くと、吐息が部屋中に充満していく。その声が自分のものだと気づいたのは、目を隠されてからだった。
「すごくそそりますね。今日、貴女はまた、僕のものになる。ねえ、いずみさん……」
 今度は腕を上に縛られる。手首の自由を奪われて、視界は何も見えない。真っ暗な中に、私の吐息だけが響く。
 身体が熱い。おかしい。なんだろう、この感覚は……まだ何もされていない。ただ縛られただけなのに、こんなに感じる事があるのだろうか。今まで縛られたときとは格段に蝕わられた感覚が違う。
「ああ……あっ、ぅうっ……」
 子宮が、膣が蠢くのがわかる。身体に食い込んでいる縄が、まるで成宮の舌、指のように感じる。びくびくと痙攣し、跳ね上がる身体を、そっと、成宮が撫でていた。
「ああ、いずみさん、素晴らしいですよ、まだ何度も縛っていないのに、こんな」
 彼の声は耳許からダイレクトに子宮へと繋がっているようだ。声が出ない。どうしよう。気持ちがいい。全身が性感帯になってしまったかのようで、私は身を捩る。
「こわ、い……わた、わたしっ、どう……どうしたのかっ……わから……」
 また耳に成宮の声が響く。
「縄酔い、と私たちは呼んでいます。縛られることで、酔ったように快感を引き出せる状態のことです」
 耳の中に舌を差し込まれ、私は嬌声をあげる。
「はあっ!ああ、あああ……」
「かわいい……僕のいずみさん、縄酔いまで起こしてしまうなんて、本当に」
 耳にちゅ、とキスの音が響く。ぞくぞくと快感が駆け上がり、仰け反った。暗闇の中、私は縛られ、彼の指と唇であわや絶頂しそうになっていた。縄が食い込む度に、そこが気持ちよくて、膣が就職するのが分かる。切なくて、入れて欲しくて、私は懇願した。
「おねがいっ、入れて……入れてくださいっ」
「だめですよ。僕が今は、貴女のドミナントですから。貴女はサブミッション。止めて、と言っても止めませんよ」
 セーフワードが頭の中を過る。ふと、先ほど行ったバーで読んだ本のことが浮かぶ。確かに、こんあんい快感が強ければエスカレートしてしまえば、そのまま死んで閉まってもおかしくない。今、あの物語の妻の気持ちが分かった気がした。
「気持ちが……よくてっ、怖い、こわい……」
 首の後ろの、縄の結びをグイ、と持ち上げられて、私は声をあげる。
「あううっ……」
 快感が強すぎて、このまま絶頂してしまうかと思う。気絶しそうな快感の中、私は必死で成宮の声を待つ。
「ほら、私の声をよく聞いて。いいですか、今とても気持ちがいい状態ですよね、僕、このまま貴女を別室に連れて行きたいのです」
「別室……?」
 はい、と言うと、彼はおそらく私を抱いているのだろう、ソファーから浮遊するような感覚。成宮の歩く音。そうか、彼は身体を鍛えているのだから、私くらい軽く抱けるのか。
 カチャ、とドアが開いた音。中に入って、彼は扉を閉めたようだ。それから、私はそっと、脚から地面に下ろされた。
「手を……そうですね、これで僕は貴女を存分に虐めてあげられます」
 おそらく私は、手首を何かで吊られているのだろう、力を抜いても上に引っ張られている感覚がすごい。立っているのもやっとで、脚がガクガクと震えている。でも、成宮の声を待っている。私は、それだけを必死で探す。成宮の存在、成宮の吐息、成宮の漏らす、生きている証を……
「ああ……とても美しいですよ」
 じっと見られているのが分かる。はあ、はあ、と自分の声がする。早く、触って欲しい。早く私を頂点に導いて欲しい。お願い。お願い……
「成宮さんっ、もう……わたし……」
「何が欲しいんですか。お強請りしなければいけませんね」
 お強請り、と言う言葉が、私の心に張り付いて離れない。それは、とても魅力的に思えた。成宮にお強請りする……それで、もしそれが叶えられたら、もっとすごい快感なのではないのだろうか。
「入れて……下さい、お願い、します」
「指が欲しいんですね?」
「はい」
「だめ、と言ったら」
 拒否されると思わなかったので、とてつもない絶望が私を襲う。どうしよう、いきたいのにいけない、早くこの快感の地獄から解放されたい。その方法は、成宮に委ねられていた。
「辛くて……どうしたらいいですか。なんでも、します、から……」
「じゃあ、今日は僕が気持ちよくなることを一つ、してもらいたいですね」
「あ……」
 私の中に浮かんだ行為は一つしかない。あれ、を、する日が来たのだ。ずっと私には見せなかった彼が、ついに……
 そう思うと、躊躇無く言葉が出てしまっていた。
「口に、あなたのを……私、舐めます、から……」
「嬉しいです。ずっと、想像していました。いずみさんが、僕のを咥えることを……」
 すると、吊られていた自分の身体は、緩んでいくのが分かる。ワイヤーの音が一瞬、聞こえた。長さが調節出来るようになっているのだろうか。全く見えない闇の中、想像だけが膨らんでいく……
「それでは、しゃがんで。そうそう」
 膝を付かされ、そっと手を後ろ頭に回される。カチャカチャ、と、ベルトを外す音が聞こえた。