lesson7:蜘蛛の巣(3)

 下着だけの格好で、ソファーに座り込んだ。
「いいでしょう……ああ……僕の付けた縄の痕が、くっきりしている……とても美しいです」
 頻繁に縛られている自分の身体は、紫色の後が消えていない。
「腕を上にあげなさい。そうそう……とてもいい匂いだ。ここの匂い……」
 腋下をくんくんとかがれて、赤面する。恥ずかしい。でもこの人の鼻先が触れるのが、心地よい……
「……あっ」
 小さく叫ぶと、成宮はすぐに私の尻を叩いた。
「ああっ!」
 楽しそうに笑う彼の顔を見られるのが嬉しい。嬉しくて、また喜ばせたい。
「声を我慢しなさい。さもないと酷く叩きますよ」
「ううっ……」
 くすぐったさと羞恥心でビクビクと揺れる身体。それを押さえ込むと、彼はゆっくりとそこを舐めあげていった。ざらざらと音がする。汗腺の奥の奥まで、じっとりと舐めてくる。気持ちが良くて、そのままいってしまいそうになる。最初に胸でいったときの記憶が蘇ってきた。
 その舌は私をめくるめく快感の渦に連れて行く。いつもいつも、私はこの人のいいなりになって……いや、本当は分かっている。こうさせているのは私。私が成宮を、こんなに酷い男にしている。一番酷いのは私なのだ。
 そのまま、舌が徐々に下着を割って入ってくる。出された乳房の下、ちょうど下着が沿う場所を、じっくりと舐めてくる。そして、ぐるりと一周して、また腋下を舐める。
「はあっ、ああっ」
「ふふ、焦らされて、呻く貴女は蜜のように甘い。とても素敵です」
「成宮……さんっ、あの、さっきの……お話は」
 冷たく見る成宮は、そのまま下腹部に舌を這わせていく。
「さっき、というのは、何のことです」
「あの、私が拓也と」
「そうですね、拓也さんと結婚して下さい。必ず」
「でもっ、でもっ」
 成宮が何を考えているのかわたしには分からない。でも、本気で言っている事は確かだろう。
 下着に手をかけて、そっとそれを脱がしていく……すると、茂みが薄く生えている私のその場所に、彼は唇を押しつける。薄い唇がそこに這わせられ、甘い刺激に私はソファーで仰け反る。
「こんなに濡らして……悪いわんちゃんだ。ねえ、いずみさん」
「は、はいっ」
 そっと、成宮の指がそこに入ってくる。長く骨張った彼の指は、いとも簡単にあの場所へと届く。
「ううっ……」
「アナルを散々慣らしてきましたけど、やはり貴女はここがお好きのようです。気持ちいいですか、膣が」
「はいっ……きもち、いい、です」
「可愛い子だ。ここに僕のを入れたらどうでしょうね。さぞ、気持ちいいことでしょう」
 それは、ずっと自分が願っていたことだ。なぜなのか、それが叶ってしまったら自分でもどうなるか分からないと思ってしまうくらいに魅力的で、待ち望んでいることだった。その、目の前のご褒美を見せつけられて、私はまた、彼に従いそうになっている。でも、でも。ほんの少し残る自我が、邪魔をする。拓也と結婚したら、私は私で無くなってしまうような気さえする。
「私……彼と結婚したら、自分ではいられないかもしれません」
「……僕が、貴女の傍にいても?」
 成宮が、その腫れて主張する三角形にキスをする。恥毛が薄く生えかけて、容易に探されたそこは、彼のキスを最大限に喜んでいる。
「ああっ、ああっ」
「ご褒美ですよ、いつも頑張って僕の縛りとスパンキングに耐えていますから……さあ、よく考えるのですね」
 どうしてこんなことを彼は言うのだろう。少しでも、私のことを恋か愛だと、思ってくれているのではないか……と勘違いしていたのは私だけなのだろうか。
「うう……でも、結婚は……いや、です」
「僕は、貴女とそうしてあげることができない。だからこそ、です。これは僕の命令です」
 分からない。このままでいいのに、私はこのまま、あなたとこうして縛られていればいい。どうしたらいいか分からない……
「さあ。今日はもう、忘れて、僕の縄に酔いなさい」
 しゅる、と現れた赤い縄。いつもよりも少しだけ、それは太く見える。そう、全てを忘れさせてくれるのは、いつもこの赤い縄だった。
「ああ……はぁ……」
 その縄を見るだけで、よだれを垂らすように私の膣が蠢いて、濡れていくのが分かる。昔、小学校の理科の教科書に載っていた、パブロフの犬を思い出す。私は、正にその犬だ。快感と縄が、完全に一致して私の脳みそからアドレナリンを放出させている。
「結婚のことは、上手くお返事出来ませんでしたね。今日はたくさん貴女を罰してあげますよ」
 縄は、先ず最初、必ず首にかけられる。それは、自分がこの人の所有物であることを示す。完全なる首輪である。その首輪を絞められることが最高の幸福であった。
「ふっ……ああ、はあ……」
 どきん、どきん、と胸が高鳴る。今から縛られる、そう思うと全身が総毛立つ。歓喜は、瞬く間に私を恍惚のその時へと連れて行く……
 縄が、自分の肌を通り抜けていく感覚。そのまま、蛇の様にがんじがらめにされ動けない快感。この人に捕らわれ、逃げ出せないという楽しさ。一生、この人に縛られていたい……恋でなければそれでもいいから、この縄で縛られていたい、ずっと。
「はあ……はあっ……」
「綺麗です。悩んで、苦しんでいる貴女はとても美しいですよ、いずみさん」
 拡げられた脚の根元に成宮の指と縄が這う。ビクビクと揺れて、欲しい欲しいと腰が彼の目の前にせり出してしまっている。また、叱られてしまう……
「はしたないですよ。さあ、お行儀良く待てるでしょう?……ふふふ」
 成宮が楽しんでいるのは伝わってくる。でも、さっきの言葉が気になってしまうのは仕方の無いことか。私は拓也と結婚する……そんな、あり得ない。それを思うと辛くて、涙が出そうになる。
「どうしたんです、泣いているのですか」
「……はい、だって  」
「今まで貴女が泣くのは拓也君のことでしたね。貴女はいつも、彼のことで悩んで、彼の事を憎んで。別れたいと願って……でもこれからは、貴女の絶望さえも僕が作る。僕のものです、全て」
 きっぱりと言う成宮に、訳の分からない感情がわき上がる。恋じゃない。恋では無かった。これは憎しみの交じった愛なのかもしれない。ふと、拓也が言った「愛してる」が意味をなさなくなっていく。