lesson7:蜘蛛の巣(4)

 言葉では無いのに、成宮のこの行動から愛を感じてしまう私は馬鹿だろうか。中年の男に捕まって、自ら動けなくなっていく生け贄のような私は、実は望んでここにいる。ここが、縛られることが必要になってきている。
「可愛い人だ、貴女は……僕の最上の奴隷です」
 頭を撫でられ、そのまま下の毛の生えかけを触られる。
「もう、少し生えてますね。また、綺麗にしてあげましょうか」
 そう言うと、彼はいつもの場所に私を連れて行く。
 カチン、とワイヤーに吊す音が、酷く官能的に聞こえる。私はいつもここで縛られ、彼の愛撫に悶えながら縄で絞められて果てている。もう、ここで彼にされることが私にとっての幸福と言ってもおかしくない。
 がんじがらめのまま、私は戒めのように、成宮の手を待っている。剃毛用のフォームを彼は取って、丁寧にそこを清め始める。このまえはT字のカミソリだったのに、今はナイフ型のものになっている。勝手が違うように見えて少し緊張してしまう。
「動かないで。そう、動くと切れてしまいますよ」
 そっと泡をこそげ取るように彼の手が進んでいく。ちょうど、腫れた三角形に当たってびくん、と身体が揺れた。
「いけませんね。本当に切れたらどうするんですか」
 パシン、と尻に掌が当たる音がする。その瞬間、あまりの快感に私は声をあげる。
「はうううっ……」
「じっとしていなさい、これは命令です」
 怖くて彼を見るけれど、彼は真剣な面持ちで私の下の毛を剃っている。じょり、じょり、という音が聞こえる。恐怖でかたまった私の身体を、彼はそっと撫でる。
「そんなに緊張しなくていいですよ、さあ、もう終わりだ」
 コップの水を、とぼとぼとそこにかけていく。短い毛が、床に散りじりになった。それを、大きなバスタオルで彼が拭きあげた。
「……さあ、さっきからとてつもなく腫れていますが、一体どうしたんですか。縄で、クリトリスを勃起させてしまうなんて、とっても恥ずかしいですね、いずみさんは」
「ああっ……」
「恥ずかしい女性なんですか、貴女は」
「はい、私は恥ずかしい人間です」
「よろしい。素直な貴女はとっても可愛いですよ」
「はい、嬉しいですご主人様」
 するりと口から出る。嬉しい。成宮に褒められるのは本当に生きていて良かったと思わせる。
「今日は罰を与えます。でもその前に。剃毛してあげたので、少しそこの味見を」
 彼はワイヤーを一気に引き抜く。すると、吊らされた私の身体は床に倒れ込んだ。
「欲しそうな目をしていますね。自分で拡げなさい」
「はい、お願いします」
 脚を開き、彼の目の前で自分の底を拡げる。薄暗いこの部屋では、はっきりとは見えていないのかもしれないが相当に恥ずかしい。せり出た突起が、生々しく自分の視界に映っている。
「ああ……いい格好ですよ。そしてとても尖っていますね。僕の舌を待っていたのでしょう」
 つん、と彼の舌がそこに届くと、縛られた身体はビクンと揺れる。
「あっ、ああっ」
「辛そうですね、縄で縛られてこんなにここを腫らして……ここから垂れているのがわかりますか?貴方の愛液が」
「知って……知っています、もう……前からっ、濡れていますっ」
「とってもいい声ですね……ほら、もっと泣きなさい」
 ちゅ、ちゅばっ、と、わざと音を立てて舐めていく成宮の、左目の黒子を盗み見する。切れ長の目の、端にひっそりとそれはある。ああ、あの黒子を舐め回したい。私だけのものにしたい。つんざく快感の中、独占欲に駆り立てられていた。
 成宮が吸う度に私の腰ががくがくと前にせり出る。すると、後ろをバシン、と叩かれた。
「ああうっ」
「そんなに可愛い声を出して。いけませんよ、感じては、これはお仕置きなんですから」
 くく、と笑う成宮。この人が憎い。どうして私を抱いてくれないのか。どうして拓也と結婚しろというのか。悲しくて憎くて、でも愛おしくて、この快感の前に跪きたくなる。所詮、私はこの人の奴隷でしか無い。この人の所有物でしかない。その喜びもある……こんなに複雑な感情を、私は今までに抱いたことが無かった。丁寧に織り込むように、私の感情を作っていったのはこの人なのだ……
 口元の愛液を拭って、彼は私を見下ろす。そして、今日のお仕置きを開始する。
「さあ、今日はどうしますか?貴方が自分で思いつく最高の償いを僕にしなさい」
「え……あの……」
 どうしよう。何をしたらいいんだろう。
「何を……したら、いいですか、ご主人様」
「思いつくことを。僕に心を捧げるという気持ちが欲しいんです」
「心を……捧げる……」
 私の心は全て彼のもの。例え表向きは彼氏がいたとしても。私だけが、この人を理解し、私だけがこの人に理解される。その喜びを、どう表現したら……
「あの、させて下さい。いつものように、咥えさせてください」
「……いいでしょう。ただし、今日は……貴女の頑張っている姿が見たいですね」
「頑張っている……?」
「僕のを、飲み干してみましょう。全部。最後まで……いいですか」
「はい。嬉しいです、ご主人様……」
 大きく開けた口に、成宮のいきり立ったそれが入っていく。縛られて、自由の利かない身体で、口だけで奉仕するというのは、どうしてこんなに興奮するのだろう。
「ふふ、いいですね……欲しくて堪らない、という貴女のその顔」
 そんな顔をしているのだろうか。確かに私はこれが欲しい。中に欲しくて疼いてしまう。後ろでもいいけれど、本当は膣に欲しかった。分かって言っているのだ。この人は、私がこれを膣に入れたくてしょうがない事を何故か知っている。
「さあ、たくさんご奉仕しなさい、わんちゃん。……裏もしっかり」
 裏筋にそって、舌を走らせていくと、大量に唾液が口から零れる。それを絡めて、また、先端へと舌を進める。
「ああ、いいですよ、とっても……可愛いです」
 成宮の声は私の脊髄を痺れさせる効果があるようだ。びりびりと痺れて、幸福感が私を包んでいく。
 掌で、耳を触られる。耳に触れられた快感と、口腔内に主張した成宮の大きなそれで、私の身体も押し上げられていた。
「自分でも触って。そう、赤く腫れた場所を、擦って。いつも一人で私を思い出しているように」