lesson7:蜘蛛の巣(5)

 そっと、その場所に指を這わしてみる。すると不思議な事に、自分で触っているのとは全く違う快感が襲ってきた。
「ふっ、ううっ、ああ」
「……気持ちがいいでしょう。それは、僕の舌ですよ。さっきまで、舐めていた僕の舌だと思いなさい」
 どうしよう、すごく気持ちがいい。自分が奉仕するのだと忘れてしまうくらい、気持ちが良かった。
 駄目だ、このままでは、いとも簡単にいってしまう気がする。
「あ、あああっ、はあっ」
「可愛い声。貴女のその、甘くて澄んだ声が僕は好きです。たまらない。いきそうになります」
「甘い……?私、が」
「貴女の唾液も、貴女の愛液も、貴女の声も、全てが甘いです。僕にとっては」
 その言葉でいってしまいそうになり、首の紐をグイ、と引っ張られた。
「うううっ」
「……駄目ですよ、いっては駄目。まだ僕が射精していませんから」
 そんな、我慢出来ないほど感じさせていて、それはない、と思う。辛い。でもその先には、とんでも無い快感がいつもある。私はそれを知って、彼の言うとおりにしている。いつもいつも。
「さあ、もっと深く咥えなさい……喉の奥を締めて。そうそう」
 自分のそれの、ぷりぷりとした感触を確かめながら、彼の亀頭を最奥に感じる。喉の奥、咽頭の奥にまで入り込んだ彼のそれは大きく、嗚咽反射を堪えながら私は必死に首を動かした。ちょっとずつ、彼の先端から湧き出る液が、私の喉奥へと消えていく。嬉しい。彼は私の口で射精しようとしているのだ。気持ちがよくて、嬉しくて、こんな最高な気持ちになることは無い。ただのセックスとは違う。じゃあ、これは何なのだろう……
「ううっ、うぐっ……」
 亀頭の形が口腔内ではっきりと分かる。これを私はいつも、後ろに入れられている。そう思うと一気に被虐欲があがる。更には、その先端から滲み出る体液を少しずつ飲むことがこの上なく楽しい。私はこの人を味わっている。ああ、この先端の大きいこれ。これがもし、私の膣内に入ってしまったら。それを思うと切ない。本当に拓也と結婚したら、これを入れてくれるのだろうか。拓也との結婚が無しになったら、この人は私から飽きて、どこかへ去って行くのだろうか。怖い。もしこの人を失ってしまったら……
「どうしたんですか?舌がお留守ですよ。しっかり舐めなさい」
 優しく言いながら、成宮は私の首の縄をぎゅっと絞める。気持ちがいい。口腔で更に主張する彼の凶悪なそれとともに成宮が呻く。
「首を絞められるの、好きですね……とっても淫乱です、今日の貴女は」
「……がっ……」
 頭に血が集まっていくのが分かる。顔は紅潮しているのだろう。あまりの気持ちよさで、飛んでしまいそうになる。だめだ。成宮の事を喜ばせなければ……
「これは駄目ですね、これ以上絞めたらいってしまいそうだ。ふふ、今日は貴女をオナホのように扱いますよ。覚悟はいいですか」
「は……」
「オナホールです、男性が自慰の時に使うものですね。今日は貴女が僕の専用オナホ、です」
 酷い言葉に確実に反応している。次から次へと、溢れていく私の愛液。それを指に絡めて、必死で突起を擦った。
「嬉しいです、私をオナホにして下さい」
「くく、可愛い奴隷です。僕の言いなり……さあ、そろそろいきたいですよね」
「はい、いきたくて気が狂いそうです」
 正直に言うと、そっと頭を撫でててくれた。
「じゃあ、その可愛くて小さい口を滅茶苦茶に犯します。僕の欲望のままに……」
「はいご主人様。お願いします」
 満足そうに彼は笑って、それから私の唇にそっとキスした。それから、おもむろに髪の毛をひっつかむと、また自分のそれを入れ込んでいく。喉の最奥にぶつけるように、彼は腰を打ち付けてきた。
「うぐっ、ぐっ」
 苦しくて、気持ちが良くて、あっというまにいってしまいそうになる。激しい腰の振りで、咽頭が刺激されるけれども嬉しい方が勝ってしまっていて、必死で首をもたげる。とっくに起ち上がり、大きく腫れた自分の突起は、いまかいまか、と成宮の射精の時を待っていた。
「はっ、はっ……ああ、気持ちがいいです、僕専用のオナホは。辛いのに頑張っていますね、いつもいつも」
 優しい声を聞いて、涙が溢れてくる。完全にこの人に依存している。今となっては、この人に詰られて、褒められることが喜びだった。
「んぐ、あぐっ……」
「さあ、そろそろいきますよ、僕も……いずみさん」
 返事が出来なくて、こくこくと頷く。自由にならない身体の、口腔を執拗に犯されて今、私達はともに死刑台への階段を昇っているかのようだった。その瞬間を待つ楽しさと恐怖。怖い。こんなふうに犯されているのに、いとも簡単に絶頂してしまえる自分が怖かった。拓也とはセックスでもいけなかったのに。この人とは、まるで自慰の仕合いみたいな、こんなことでも、こんなにも心が通じ合っているように感じる。愛おしい。いつも心を共にしていたい。こんな人は初めてだった。
「ああ、ああ……すごい、喉がしまって……ああ、気持ちいい」
 余裕が無くなっている彼を見るのは楽しかった。私で射精する、我慢出来なくなっていく様子は可愛いと思えた。
「ああ、可愛い……僕のいずみさん、僕の……っ、一緒に」
 そう成宮が呟くと、私の視界はフェードアウトした。首が絞まっていき、恍惚と共に最大の快楽がやってくる……
「ああ、出します」
 簡潔に言って、彼の精液が流れ込んでくるのが分かった。どくんどくんと次から次へと溢れてくる精液を、必死で飲み干す。その瞬間、弾けた。
「ふううううっ……」
 しゃがみ込んだまま、私は突起を触って、絶頂する。首の縄が気持ちいい。もっと、締めて……私を、いっそのこと……殺してくれればいいのに。
 二人でその死刑台から飛び降りていくように、絶頂の後彼は私を抱きしめる。こんな背徳的な行為は今まで無かった。セックスでは無いのに、心が繋がったような感覚……
 ワイヤーから外すと、首の縄の痕をそっとなぞって、成宮は言う。
「貴女にチョーカーをプレゼントしなくては」
 こくんと頷き、私は彼の腕に甘える。
 挿入しなくても、こんなにも気持ちいい。心地いい。
 もうこの人から離れられなくなっている。
 終わらない蜘蛛の巣の中に、捉えられた蝶のように、羽ばたきもせず、従順な獲物になる。それで、私達は満たされていた。