lesson9:食い込む音(5)

「申し訳なかったんです。貴女にそこまで舐めさせて。でも好きです。気持ちがよかった。上手ですね、いずみさんは本当に」
「あ……あなたが、私にこうさせたんです、私を淫乱にしたのはあなたです」
「そうですよ、だからずっと責任を取ります」
「責任……」
「貴女を、淫乱にした、その責任を、僕が」
 ゆっくり分からせるように成宮は言う。責任とは、一体なんのことだろう……
「––僕が死ぬまで。離しませんよ、いずみさん。貴女は僕のものだ」
「わ、私も––死ぬまで。成宮さんは私のものです」
 硬く抱き合って、その境界さえも無くなってしまえばいいと思う、細胞膜のその際さえも、無くなって溶けたい。一つになりたい。そう、こんなにも切に、願ったことがあったろうか。これが、愛おしいとおもうことなのか……なぜ、こんな気持ちを神様は作ったのだろう、どうしてそれが、成宮なのだろう。残酷な仕打ちをしてくれるものだ。
「いずみさん……」
 その後を、成宮は言わない。言わずにじっと見つめる。何かを言うより、この人の言おうとしていることが届きそうだった。彼の目を見つめる。この人が好きだ。縛られても、縛って無くても、この人と一緒にいたい。今際の際まで。たとえそれが、どんな形であったとしても……
 唇の感触が、耳たぶに、睫毛に、眉毛に。この人精一杯の証を受け取る。言葉ではもう、言い表せない。こんな状況で、愛、なんていう言葉は無にも等しい。そのまま、舌が、唇が乳房に、臍に、恥毛に。自然と開いた足の間に入っていく。
「ああ」
 思わずため息が漏れる。最初の頃、舌と唇で愛撫してもらったように優しかった。それは、くるくると中心を翻弄し、あふれていく液体を啜りあげる。かと思うと十分に湿ったそこに、差し込まれていく。
「ああっ、はあ……」
 快感のため息が漏れる。そこが溶けてしまって、熱くてたまらない。欲しい、奥に欲しい。肛門がずきずきとうずき出す。いつもは後ろに入れているのに、でも今日は。もっともっと、重要なことが待っているのだ。
 震える身体を、そっと撫でる。臀部を柔らかく包んで、ぺろりと唇を舐めるその人は、苦痛の表情をしながら言う。
「入れたい」
 直接、子宮に注がれているのかと思うような声だった。
 逆らえない、むしろそれが欲しかったのだ。嬉しくて、私ははい、と頷く。と、同時に左目から、ひとひら、涙が零れた。
 成宮のいきり立ったそれが、私の濡れそぼったそこにゆっくりと入っていく。添えられた手が、妙に生々しい。先端を飲み込んだとき、異様な痙攣を感じて、私は仰け反る。
「ああっ」
 こんな快感があるだろうか。何度も想像した、何度も切望したそれが、私の中に入ってくる。大きいその凹凸に翻弄されながら、腰はがくがくと揺れていく。
「……ああ」
 途中まで入れて、彼は吐息を漏らす。嬉しくて嬉しくて、彼の首にすがりつく。すると、ゆっくり、これでもかと存在感を確かにしながら、奥まで彼が入ってきた。
「……‼」
 言葉が出ない。
 出なかった。
 気持ちがいい。このまま、域が止まってしまいそうだった。吐息だけを吐き、パクパクと口を開ける。声が出ない。奥の奥、一番奥まで届いているそれ。びくびくと痙攣しているのは、私の身体か、彼の身体か。それさえも分からない。
「––ああっ」
 やっと声が出たかと思うと、彼が一番先端まで引き抜く。それから、またずぶりと奥まで差し込まれた。
「ああっ、ああ、ああ……」
 彼は、何も言わずに私の髪をかき上げる。
 律動が始まる。それと同じく、突かれる毎に声が漏れた。
「あうっ、はあっ、ああっ」
 徐々に彼の表情は和らいでいく。辛そうだった彼の顔は、恍惚のそれになっていく。ぐちゅ、ぶちゅ、という音が、白い部屋の中に響いていく……
「な、なるみや、ああっ、はあっ……」
「なんですか」
「ああっ、これ、私、私っ……」
「気持ちが良さそうです。今までで、一番」
「きもちいいっ、いいですっ、ああ」
 脳味噌が、まるでバグか何かのように、難しいことが考えられない。気持ちいい、それしか頭には浮かんでこない。これはなんだろう。こんなことが、今までにあっただろうか。
「こわ、こわ、い……助けて、なるみや、さあん……」
「ああ……気持ちいい。こんなに気持ちがいいんですね……貴女が完全に僕のものになるのは」
「はい、はい、ああ」
 時折、また下腹部が熱くなる。何かが漏れているのが分かった。
「また、噴いてますよ、いずみさん……」
「だめっ、だめっ……」
 自分では止められない、気持ちが良くて、何が何だか分からない。散々今まで咥えてきた成宮のそれが、どんな形で、どんな風に私の膣をかき回しているのか、手に取るように分かる。それが、ご主人様と慕ってきた彼の愛おしい肉だから、だった。大きめな雁首が、子宮の入り口に当たっている、すがっている成宮は薄く笑っている……その光景が卑猥で、私は彼の目の奥に光を見た。
「あ、あ、あ、」
 断続的に続くその声、それと同時に彼の律動は早まっていく、切なくて切なくて、彼の唇を催促するように唇を開けて、舌を差し出す。すると舌が絡まる。
 私の頭と顔を、肘と手のひらで押さえつけて、彼は身体を密着させた。
 そのまま、私は律動に身を任せる。すると、舌が擦れて、それが気持ちよくて夢中で汗だくの頭を抱えた。
 ぴったりと密着する中で、私は最奥に彼を感じる。開ききった脚は、彼の背中をぎゅっと締め付ける。ずっと、このまま、このままがいい……
「いきます、いきます……ああ、私、中で」
 初めてのことなのに、必ずそうなるという実感があった。
「ああ、僕も……もうだめだ、散々我慢してるから、もたない」
 絶頂の瞬間の中でも、押し上げられている快感がものすごい。
「ああっいく––いきます、成宮さん、私、いく」
 宣言すると、にっこりと笑いながら成宮は言う。
「いずみさん、僕は貴女のものです」
 その瞬間は、目を瞑ってしまった。
 竹林の中に、強烈な光を見る。
 洗練された、その清々しい光の中に飛び込む。
 押し上げられ、はじける––
 何が起こったか分からないくらいの快感と痙攣。
「あうっ、あううっ」
 何を言っているのか、何がどうなっているのかも分からない。
 快感が止まらず、辛くて私は彼にまたすがりつく。そのまま、ゆっくりと律動している彼が、耳元で囁いた。
「ああ……いきますよ、中に……だし、ます」
 嬉しくて、全て受け止めたくて私は身を縮こませる。中で暴れるそれが愛おしい。
「はあ……あぁ」
 すさまじい多幸感の中、私は彼の一筋の涙を確認して、気を失った。
 こんなに嬉しいのに涙があふれて止まらないのは、どうしてなのか、知りたいと思った。