lesson9:食い込む音(4)

 不意に、その場所がじわっと熱くなる。何か、漏れているような気がしていたが、その感覚は最大まで膨れる。確実に、じゅっ、と、何かが漏れ出た。
「ああっ!ああっ……だめ、だめえ……」
 温かいものが、シーツにしみていくのが分かる。どうやら漏らしてしまったのか。恥ずかしさと混乱と、快感でごちゃごちゃの心。成宮は優しく言う。
「潮吹きですね……ああ、素敵です」
 そう言いながら、そっとそこに唇をつける。ずず……と、啜る音。
「成宮さん……だめです、そんな……汚いです」
「汚くないですよ、この液体は僕のです、これも飲みたい。全て」
 奉仕するように舐め、噴いたばかりの潮を啜り、私に忠誠を誓う。今まで私がしてきたことを、成宮は返している気がした。じゅるじゅると啜り、舐め、そして食べるように啄む。びくびくと身体が揺れて、彼を心から感じている気がした。
「成宮さんっ、私……私」
「いずみさんが僕のもので、僕もいずみさんのもの。こんな素敵なことがありますか」
 期待と不安でいっぱいの顔を、そっと撫でられ、私は目を閉じる。こんなにも幸せなことは、今まであったろうか。完全にこの人のものになる。それがこんなにも怖いことだとは思わなかった。
 その、潮で濡れた場所に舌が這う。そっと、舐め尽くしていく……恥ずかしいと、だめだと言う私の身体を押さえつけて、跳ね上がる身体を無視して舐める。快感を逃がそうと躍起になる私の身体。それでも、くるくると旋回する彼の舌に翻弄されて、快感を逃がせず、苦痛にも感じる快感。苦しい。これが彼の本当の姿。今までのことが裏返されたように、私は快感を苦痛に感じる。今までは、苦痛を快感と捉えていた。縛られ、無理矢理に突っ込まれ、アナルを開発され。それでも、私は快感を感じていたのに。それが嘘みたいだった。
「ああっ、ああっ……つら、い……つら……」
「縛ってひどいことをしていたときは気持ちいいと言っていたのに、不思議ですね、いずみさん」
 ちゅっちゅ、と音がしたかと思えば、ほんの少しだけ噛む。腰が逃げて、それを捕まえられる。腹部に這わせられた手のひら。ゾクゾクと快感が湧き上がって、絶頂へと向かいたくて、私は身体をよじる。それを分かっているかのように、彼は私のその、尖った三角を全て口に含む。それから、そっと、また指を入れ込んでいく。
「はあっ、あ、あ、ああ」
 断続的に吸われて、優しく奥をとんとんと揺すられる。だめだ、これは、確実にいかそうとしている。いきたくない。だって、私はこれから……
「成宮さんっ、私、だめですっ、このままでは」
「なんですか」
 これが当たり前といった風に、彼は私を見る。
「いってしまいます、だから」
「……ふふ。可愛い人だ、貴女は」
「でも、このままいくのは……」
「どうしたいのですか」
「成宮さん、成宮さんが欲しい」
「……僕も貴女が欲しいです。とても」
「舐めても、いいですか」
「僕は貴女のものです。好きなように、してください」
「はい……」
 まるで夢から醒めたように、好きなように成宮の身体を触れる。触れても、怒られないし、首輪を締められることもない。彼は柔らかく笑っている。これが、本当に彼のものになるということか。これが知りたかった。私はこれのために、今まで生きてきたのでは無いかとさえ、思える。
 彼の鍛え上げられた身体。なめらかな腹筋の隆起。好きな匂い……彼の匂いが、私の鼻腔を満足させていく。成宮の清廉な匂いは、まるで清々しい竹林のようだった。清潔で、洗練された男の匂い……匂いだけで興奮する。匂いで、快感を感じるなんて。こんなことが現実のあるのだと思うと、今までの私と成宮の触れあい合い方は、間違っていなかったのだと思わされる。縛り、肛門を犯される、あの奇特な日々を……
 彼の穿いているデニムのジッパーを下げると、もうすでに期待で硬くなっている彼の姿が浮き出ている。柔らかな素材のボクサーパンツ、そこからありありと浮き出て、私を喜ばせている。何度、口に含んだだろう。何度、この人の精を飲み込んだのだろう。愛おしくて、下着の上から唇で啄む。
「ああ……」
 声を出すことが無かった成宮が、今は快感に漏れる声を隠せないなんて。嬉しくて、また更にキスを落とす。その匂いが、嬉しい。下着に染みた液体をじゅっ、と吸い上げる。
「いずみさん……」
 あなたが育てた女は、こんなにもフェラチオが上手なのだと、分からせたい。舌技でもだえる成宮を見たい。声が聞きたい……様々な欲望を全て落とし込んで、私は彼のものを口に含む。デニムと下着を、彼は上手に脱いでいく。それを追いかけて、また咥える。白いシーツの上で攻防が繰り広げられていく。彼に奉仕している、という幸せに包まれていく……
 先端の出っ張りに舌を絡めて、くぼみに唾液を絡めて。がっちりと勃起した彼の、たくましい姿に惚れ惚れする。いつもは後ろの穴に食い込んだこれが、今日、私のあの場所に入るなんて。嘘みたいで楽しい。早く貫いて欲しい。これが入るなら、そのために私は何だってする。愛情の無くなった彼氏とも結婚する。だから、早く。
「ああ……気持ちいい……とてもいいです」
 甘い声が心地よくて、もっと聞いていたい。もっと、もっと。低くて甘くて、とろけそうになる。下からまた、何かが漏れそうになる。期待で中が、きゅんきゅんと締まるのが分かる。欲しい。欲しい……
 根元に舌を這わせて、また先端から全てを包み込む。喉の奥にそれを感じて、喜んで。少しずつ漏れ出ているそれを、ゴクリと飲み込む。嬉しかった。彼が私の一部になる嬉しさは、何にも変えられない。そのまま、ぴくぴくとうごめく彼の陰嚢に、私は唇を付ける。
「う……」
 成宮の眉が、歪む。それを見届けながら、私はそれを口の中に含む。そっと、転がすように舌で舐め、味を感じる。少しだけしょっぱくて、精の匂いがする。眉をひそめて私を見る彼が愛おしい。そのまま、今度はもう一つの球体を口にほおばる。今、自分が吐き出した方はうごめき、てかてかと自分の唾液で光っている。その上にそそり立つ、凶悪なそれ。これ、これが欲しかった。後ろの穴でも十分気持ちがいいのに、それを中に入れられたら、一体どうなってしまうのだろう……
 先端から、少しずつ垂れていく透明な液体を吸おうと、唇を球体から離す。すると、成宮はそのまま咥えさせずに私の身体を抱き寄せた。
「いずみさん……なんという……そんなことまで。僕が頼んでいないのに」
「だって……口に入れてみたかったんです。ずっとずっと」
「とても良かったですよ。貴女がこんなことをしているなんて、興奮しました」
 どういう意味だろう、私がすることでは無かったのだろうか。一抹の疑問がよぎる。すると彼は、それを察したように私を見つめ、笑った。